交通事故後遺症の治験発表

先日、東洋はり医学会で発表した物を掲載します。

交通事故の後遺症に苦しむ患者さんでした。時間はかかり、完治とはいかないまでも良い結果が出ました。

鍼灸師の学会員のみの場での発表で、一般の方はいないので、専門用語や独特の言い回しなどわかりにくい所が沢山あります。少し長いので変化のあったところだけ残して多少文章を削りました。

 

「交通事故後遺症」
研修部 山口太毅

「患者」 38歳 男性
「職業」 サラリーマン
「初診」 平成30年7月24日
「主訴」 交通事故後遺症
「現病歴」
15年ほど前、歩行中に後ろから自転車に衝突され意識を失い、救急車で病院に運ばれそのまま入院。3日間、集中治療室に入った後、一般病棟でリハビリをしながら入院生活。その後目立った後遺症もなく1か月後に退院。それ以来、治療やリハビリも特にせずに今に至る。医師の診断ではむち打ちと打撲。体を鍛えていたおかげで目立った後遺症もなく、回復も早かったと言われる。

「望診」
身長170㎝、体重65キロ。中肉中背。顔に生気がなく見るからに疲れている。背筋はピンと伸びていて姿勢は良い。

「聞診」
声に張りがなく、疲れ切っていて絞り出すようにしゃべるが、テンポはやや早い。
話始めると、はきはきと切れが良くなってきて、止まらなくなる。

「問診」
交通事故以来、事故で痛めた胸椎上部を中心に、首回りに常に重りが乗っているような感じがあり、体も疲れやすい。特に長時間の運転やパソコン仕事をしたときに症状が重くなりやすく、目も疲れやすい。天候が悪い時にも首周囲が重だるくなる。
市場関係の仕事をしているため起床時間や食事の時間がバラバラで規則的な生活はしていない。食欲もあまりないが、3食しっかりと取る。夜は疲れ切っているので夕食後、風呂に入りすぐ寝る。寝つきは良い。朝起きても疲れが残っているが、朝が一番調子が良く徐々に疲労が溜まっていき、夕方に疲労のピークが来て電池が切れたようにガクッと力が抜ける。

「切診」
脊柱のS字カーブがなく、胸椎1~2番周囲がへこんでるように見え、その部分の皮膚は軟弱で中の方もぐにゃっとしていて芯がなく虚している。全身の筋肉が緊張していて、特に頚部から手の指先までと下腿の緊張が強く、胸部と母指球、小指球の筋肉が異常に発達し、緊張している。

「腹診」
全体にやや湿っている。小腹と比べ大腹が虚している。経絡腹診では脾の見どころが軟弱で最も虚、次いで心のみどころが虚。
「脉状診」
浮・平・虚。締まりがなく開いている。

「比較脉診」
右関上沈めて脾の脉、力なく最も虚。浮かせて胃の脉、実。左寸口沈めて心の脉、次いで虚。左尺中沈めて肝の脉実が感じられました。

「病症の経絡的弁別」
目の疲れ、筋肉の緊張、話始めると止まらないのは肝の変動、
疲れやすい、体が重だるい、食欲がないのは脾の変動

「証決定」
以上、腹診・脉診・病症などを総合的に判断し、脾虚証としました。

「適応側」
男性であることと切経により左を適応側としました。

「予後の判定」
若く治療に意欲的なので、予後は良としました。

《治療1回目》7月24日(火)
(本治法)
左太白穴に銀鍼寸3‐2番を用い、経に随いごく軽く取穴し、竜頭を極めて軽く持ち、押手の母子と示指の間に鍼を入れ鍼先を静かに穴に接触。目的の深さに鍼を刺入し催気。気が至るのを度とし、押手の左右圧をかけ、去ること弦絶のごとく抜鍼すると同時に鍼口を閉じる補法を行いました。検脉すると、脾の脉に力強さが出、脉全体が少しやわらかくなり、開いていた脉が少し閉まりました。大腹の脾の見どころもしっかりして艶も出てきました。続いて左大陵穴に同様の補法を行いました。再度検脉するとさらに脉全体に柔らかさが出て脉も締まりました。お腹も全体的に艶が出て柔らかくふっくらとしました。肝の脉の硬さも取れたので陽経の処理に移りました。
右関上表面にわずかに虚性の邪を感じたので、塵に応ずる補中の瀉法を行いました。右の豊隆穴にステンレス鍼寸3-2番を用い、経に逆らい取穴し、補ってから1ミリ程度刺入し抵抗が取れたら鍼に邪をからめスーッと抜鍼しました。検脉すると胃の脉の表面のザラザラを感じなくなりました。同様に左関上の虚性の邪に対して光明穴に塵の手技を行いました。肩井穴や風池穴周辺がゆるんだのを確認できました。
(標治法)
胸椎1,2番の周囲で皮膚が軟弱で芯がなくへこんで見え、湿っているところを中心に虚している部分3か所に5分灸を温かく感じるまで行いました。皮膚に多少の張りが出てきたことと、疲労があったのでやりすぎない方が良いと判断したので1回目の治療を終了しました。

《治療2回目》7月25日(水)
前回の治療後は多少疲れにくくなったが、首に重りが乗っている感じや夕方のエネルギー切れは相変わらずあったとのことでした。検脉すると前回のように脉全体が力なく開いていました。比較脉診では腎の脉が浮いていてもっとも虚していました。腹診も腎のみどころが力なく艶もなく軟弱で湿っており、肺の見どころである右側腹部が、左に比べて力なく垂れ下がっていました。腹診と脉診より腎虚症で治療を行いました。腎の脉に力強さが出て脉全体が柔らかくなり締まりも出て、お腹も腎の見どころの皮膚がしっかりしてサラサラになり、肺の見どころも力が出てきて、お腹全体がふっくらとしました。この日以降、証は腎虚症で治療しています。
標治法は前回と同様の灸のみとしました。治療後2~3日はなんとなく調子がいい気がするとのことでした。

《治療5回目》8月3日(土)
前回の治療後少し調子がよかったとのことだったので、標治法を新たに加えることにしました。検脉すると脉はやや開いているものの、以前よりはやや力強く感じられました。脉診、腹診から左腎虚症で治療を行いました。
票治法では軟弱で湿っている肺兪とその付近にごく浅く刺鍼と灸、硬結圧痛のある天柱穴と肩井穴に少し深めに刺鍼しました。
施術直後から体が軽くなったみたいで、顔色も赤みがさして血の気が出てきて表情も明るくなりました。

《治療7回目》8月14日(火)
疲労感や首周りの重さなどが明らかに改善されているにもかかわらず、胸椎1,2番周囲の変化があまり見られないので、刺絡をすることにしました。
本治法は左腎虚症で行いました。大椎穴から神道穴(T5)の間、一行線ぐらいの幅をアルコ―ル綿花で拭いたところ、身柱穴(T3)やや右あたりにぼーっと血絡が見られたので、そこに刺絡を行いました。きゅうかくで吸うと色の濃い血液がジワジワ出てきました。量はきゅうかくの底にうっすらたまる程度でした。出なくなるのを待ってきゅうかくを取り、以上で標治法を終えました。
首回りが少し軽くなった気がするが、そんなに変化は感じないとのことでした。

《治療8回目》8月15日(水)
患者さんからこの日の昼過ぎに電話がかかってきて体が辛いから今日見てほしいとのことで前日に引き続き来院されました。問診すると昨日の夜までは何ともなかったが、朝起きた時から体がだるく首も重く、昼前には疲労で動くもの大変だったとのことでした。脉を診ると全体に締まりがなく開いていて、1回目の治療の時と同じような状態でした。腹診ではそれまでと同じく腎と肺の見どころが虚していたので、腎虚症としました。
この日は本治法と胸椎周辺の虚に対する5分灸のみで治療を終えました。刺絡をするだけの体力がないと判断してこれ以降しばらくは刺絡を行いませんでした。
その後しばらく本治法は左腎虚症で行いました。標治法は体の状態を見ながら、調子がよさそうなときは刺鍼を、疲れている時はお灸と鍉鍼のみの治療を行いました。20回目を過ぎたあたりから、夕方のエネルギー切れで疲れが突然やってくるような症状がなくなってきて、何とか1日通して働けるようになってきたと報告を受けました。全身の筋緊張もほとんどなくなっていて、母指球と小指球も柔らかくなっていました。

《治療25回目》10月31日(水)
いつも通り左腎虚症で本治法を行おうと切経したところ、突き上げるような脉になり、肩や首は緊張して固くなり、お腹も締まりが出てこないので適応側の見直しを行い右腎虚症で治療を行いました。この日以降、証は右腎虚症で標治法は鍉鍼のみで行っています。

現在治療継続中ですが、疲れていても以前ほど脉が開いていることはなく、全体的に以前より沈んでいるように感じます。症状としては交通事故の後遺症で自覚できる部分はなくなったが、仕事の疲れや首や肩のコリはあるとのことです。

以上

この患者さんは何年も後遺症で苦しんでいました。病院で検査しても特に悪いところはないと言われて、半分あきらめていたみたいです。はじめは顔色が悪く疲れていて声を絞り出すようにしてしゃべっていました。首から肩にかけて常に重たく、天気の悪い日や疲労で悪化していたそうです。

治療の結果少しずつよくなっていたものが、ふっと元に戻ってしまうなど、3歩進んで2歩下がるの繰り返しでした。

2か月ぐらいで体が変わってきましたが、本人はまだ変化を感じていませんでした。
3か月を超えたぐらいから本人も調子がよくなって来たようで、顔色もよく元気も出てきました。
半年ぐらいで普段の首肩の重たさを感じることはほとんどなくなったようです。
今は疲れがたまった時に首が重たくなるとのことで、継続治療中です。

東洋医学の考え方2

鍉鍼 価格一覧前回の続きで、今回は経絡治療についての説明です。

経絡治療とは経絡、気血津液、五臓六腑を一体として捉える考え方で、日本独自の治療体系です。

経絡を気血津液がよどみなく流れ、五臓六腑が過不足なく正常に働いていると人は元気に健康でいられます。経絡、気血津液、五臓六腑のどこかで不調をきたすと病になります。

病は五臓から始まります。
①まず始めに五臓が弱る。
②弱った五臓に病因が影響を与え働きが悪くなる。

〇病因とは内因・外因・不内外因の3種類あります。

内因(感情):怒・喜・思・憂・悲・恐・驚
外因(気候):風邪・暑邪・燥邪・火邪・寒邪・湿邪
不内外因(その他):飲食の不摂生・疲労・房事(性行為)・ケガ・妊娠出産

③循環が悪くなり全身に気血津液が行きわたらなくなる。
④さらに五臓六腑に悪影響が出る。
⑥病になり様々な症状が出る。

以上のように、病気になるまでにいくつかの段階を経ます。経絡治療では最初の五臓の状態を重要視します。五臓の状態が正常になれば、その他の異常も自然と良くなり病も回復します。

五臓の状態を正常にし、全身の循環を良くするための治療を本治法と言います。本治法は病を直接直すわけではありませんが、全体に与える影響が大きく、治療効果が上がったり治療期間が短くなります。逆に五臓が弱ったままだと、いくら治療してもなかなか良くなりません。経絡治療の神髄は本治法にあります。

症状に対して行う治療を標治法と言います。TVなどで紹介される○○に効くツボ等はこの標治法で、肩こりなら肩こりに効くツボに、冷え性なら冷えに効くツボに直接行う治療です。

経絡治療では本治法と標治法両方合わせて行います。今出ている症状を治療しながら根本治療もします。根本から治療するので様々な病気にも効果があるし、健康で長生きもできるようになります。

東洋医学の考え方1

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東洋の思想をベースにしている東洋医学では
体に対する独自の考え方があります。
現代の西洋医学とは全く違う考え方です。

また東洋医学は古代にある程度完成しているので、
古い文献を参考にすることが多いです。
ですので昔の言葉をそのまま使っていたりします。

最初はとても分かりにくいのですが、
慣れてくると直感的にイメージしやすくなります。
私は慣れるまでに5年はかかりました・・・・

できるだけ難しくならないように東洋医学の考え方を説明していきます。
こんな考え方もあるんだな~と軽く読んでください。

〇人間の体は気・血・津液がよどみなく巡ることにより正常な生命活動を行っています。

気・・・東洋独自の概念で、様々な働きがあります。体をめぐるエネルギーみたいなイメージです。
血・・・西洋医学でいう血液のことです。血の巡りが悪くなると慢性化・重症化します。
津液・・体内の水分です。汗やむくみ、肌の状態に関係します。

〇気・血の通り道を経絡(けいらく)と呼びます。

経とは縦、絡とは横の道を表します。それぞれ経脈・絡脈と呼ばれ、体中に張り巡らされています。
これらを合わせて経絡と言います。

〇経絡はメインの12本の道があり、それぞれが内臓(五臓六腑)と密接につながっています。

五臓とは肝・心・脾・肺・腎、六腑とは胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦です。
これに心包を含めて12個になります。

〇五臓六腑にはそれぞれ役割があり、気血津液とは相補的な関係になっています。

脾と心包と三焦は独特のもので臓器ではありませんが、臓器同様の役割を持っています。
五臓六腑で気血津液を作り出したり循環させたりします。
また気血津液が五臓六腑を働かせたり栄養を与えたりして、お互いに助け合っています。

次回に続く

気と老化

気には大きく分けて2種類あります。先天の気と後天の気です。

先天の気とは生まれ持った気で、生まれた時が最大で年齢とともに減っていき、この気がなくなると生命は活動を停止します。後天の気とは飲食物から得られる気です。この二つの気が合わさって初めて人間の活動が行われます。生まれつき持ったエネルギーと食べ物から得られるエネルギーで生きている、ということです。

気は消耗品です。後天の気は飲食物を取ることによって補充できますが、先天の気は減る一方で補充することができません。減るのを少なくするために後天の気で補う事しかできません。しかしちゃんとした食事を取らなかったり気を消耗しすぎると、先天の気の消耗が激しくなり、老化現象となって体に現れてきます。白髪が生えてきたり、腰が曲がってきたり、性欲がなくなってきたりと体は年齢以上に老化していきます。さらに気の減少は回復力や免疫力を下げ、病気にもつながります。

先天の気の消耗を避けるために重要なのが食事、睡眠、運動、房事(性行為)です。

食事は腹八分目、寝る3時間前には取らない。睡眠は短すぎても長すぎても良くない。毎食後軽く運動する。激しい運動はしない。房事はなるべく控える。規則正しい生活を心がける。

子供に対する生活指導みたいですが、しっかりやろうと思うと意外と大変です。でもこれらを実行すると、全身の気のめぐりが良くなり余分な気の消耗も避けられ、老化を防ぎ健康で長生きできるようになります。

気は誰にでもあります

当院の治療は気の調整をメインに行っています。

”気”と聞くと怪しいとか嘘っぽいと思うかもしれませんが、東洋医学では”気”は人体の中では重要なものです。

日本でも明治時代までは”気”は人々の間に当然のように存在していました。その名残が現代の日本にも残っています。空気や電気、気が重い、気が抜ける、気が合うなど、いろんなところに”気”が出てきます。目に見えないけれど何らかの働きをしている物を”気”として理解していたようです。

現代の東洋医学では”気”は物質というよりは機能そのものとして捉えらえていることが多いです。体を温める、血液循環をよくする、などの機能です。
”気”を生命エネルギーであるとする考え方もあります。エネルギーも運動エネルギーや位置エネルギー、化学反応のエネルギー、原子核のエネルギーなどいろいろな状態を取るので、気もその中の一つかもしれません。
また、この業界にいるとたまに”気”が見えるという先生に出会います。表現は人それぞれですが、何かが見えているようです。中には”気”を発して病気を治すという先生もいました。

私は現時点では”気”が見えることもなく、発することもできません。体の反応を見て”気”のめぐりの悪いところを見つけ出し、ツボを使って”気”が流れるようにするだけです。東洋医学の教科書にその方法も考え方もちゃんと書いてあります。それに従って治療をしています。
長年そんなことを続けていると、”気”はあるような気がしてきます。人体が反応するからです。ちゃんと病気が治ります。
気が合う患者さんには効果が出やすいし、合わない患者さんには何をやってもなかなかうまく行きません。これも”気”のせいです。

気の世界は奥深いです。
もし”気”に心当たりのある方はぜひお話を聞かせてください。

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